2014年3月9日日曜日

●『クラウドストーミング‐組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方』(ショーン・エイブラハムソン/ピーター・ライダー/バスティアン・ウンターベルグ 著  須川 綾子 訳 阪急コミュニケーションズ 2014)

組織でアイディアや意思決定をする際によく用いられるのが「ブレインストーミング」だ。
本書では、そのブレインストーミングの参加者を、組織外の群衆(クラウド)までスケールアップさせたものを「クラウドストーミング」と呼ぶ。
ITの普及に伴い、不特定多数のアイディアを集め、意思決定や新商品・サービスの開発などに役立てることが容易になった。
さまざまな事例を用いながら、クラウドストーミングを成功させるための理論と具体的方法論を解説している。

本書では、クラウドストーミングの募集形態を参加者の役割に応じて次の3つに分類している。
・サーチ型
ひとつのチーム、あるいはひとつの企業といった組織の枠組みを越えて、その外側に存在する専門家を発掘して採用する。
参加者に求められるのは、専門知識に基づいた問題解決能力だ。
・協調型
アイディアの提供者に加え、フィードバックやアイディア評価といった補助的業務を担う人材にも募集をかける。
参加者はアイディア、フィードバック、成果物の評価を共有し、互いに交流する。
・統合型
協調型を発展させた形態。クラウドストーミングを組み込んだ組織を土台にビジネスを展開する。必然的に実行すべき仕事は多くなり(アイ
ディア創出、試作品作成、生産活動など)、組織外部だけでなく内部においても適材を見いだす努力が必要となる。

クラウドストーミングを成功させるためには、できる限り多様性のあるアイディアを集めることだ。
しかし収集した情報には玉もあれば石もある。
その中から有用なものを見分ける、あるいはそれらを結合して新しい価値をどれだけ見いだすかに成功がかかってくる。
クラウド(群衆)の潜在能力を生かし、社会を活性化させていくためには、この玉石混淆を見極めるキュレーター的人材の育成が重要なのかもしれない。

2014年3月8日土曜日

●『スウェーデンはなぜ強いのか 国家と企業の戦略を探る』(北岡孝義 PHP新書 2010) 

本書の中で、代表的なスウェーデン企業として紹介されているのが、H&Mとイケアである.
この2つの企業に共通しているのは、高品質と低価格はもちろんだが、スウェーデンの国家や国民性に基づく環境および労働条件への配慮が傑出している点だ。
この国家・国民の基盤については「国民の家」という国家理念に見ることができる。
一方、ボルボやサーブが破綻しても政府は救済しないという、非常に市場原理主義的な側面もある。

スウェーデンは、持続可能な社会保障制度を重視している。
税金は非常に高い。しかし医療費は、20歳以下は原則無料で、20歳を超えても、自己負担の上限が、900クローナ(12000円相当)と定められており、それ以上は原則無料である。
託児所も無料だ。教育費は、原則大学・大学院まで無料である。

高福祉高負担には、当然、国民の痛みがともなう。
しかしその施策を国民が受け入れている根底には、政治への信頼がある。
徹底した情報公開・運営の透明性と政策の説明責任がその背景にある。
そして「どんな国にしたいのか」という国の目指すべき姿を長い時間をかけて議論し、作り上げてきた歴史がある。

一方、日本には現在、政治への信頼があるだろうか?
投票率の低さを見ても目を覆うものがある。
政治家への不信感を嘆くのはなんら解決策を生まない。
国民ひとりひとりが「この国の将来」を考える力をつけていくことが、喫緊の課題なのかもしれない。

2014年3月2日日曜日

●『事業創造のロジック‐ダントツのビジネスを発想する』(根来 龍之 日経BP社 2014)

創造的な戦略を立てるためには何が必要か。
競争戦略論やビジネスモデル論を勉強すればビジネスの創造性が高まると思っている人は多い。
しかし、理論や手法を参考にして、自分の頭で考えることが大切だと著者は説く。
本書は、ビジネスモデルの勝利によってダントツの成功を収めた会社を分析し、ビジネスモデルに埋め込まれているロジック、すなわち「考え方」をたどることで、その会社の強さの秘密を明らかにしている。

たとえば大田区を中心に東京23区に営業範囲を広げており、1日に提供する弁当の数量は平均7万食という事業所向け弁当を供給する「玉子屋」の場合。
1日に2000食売れば大手と言われる弁当業界にあって、他社の追随を許さない規模である。年商は約90億円、従業員数は約700人。

同社が原価率の高い弁当を製造しても赤字にならない理由の1つが、弁当の廃棄率を極限まで下げていることだ。
成功の肝とも言えるのは、ユニークな配送方法である。通常のルート配送は、担当エリア別に必要な数量の商品を積み込んで配送車が散っていく。

しかし玉子屋は違う。
まず、工場から離れた地域を担当する先発組は、予測される受注数よりも多めの弁当を持って工場を出発し、担当エリアで弁当を配達する。
その後、配送を終えた先発組は工場に戻らず、遅れて出た後発組と連絡を取り合いながら、弁当が不足しているエリアの配送組と落ち合い、過不足分の弁当を渡す。現場の配送員たちの連携プレーによって、廃棄率を極限まで下げているのだ。

経済性原理がうまく働く会社には、その重要なポイントとなる「駆動要因」がある。
玉子屋の「駆動要因」は「1品メニュー化」だ。1品メニューだから、材料仕入れでまとめ買いができるし、調理の効率が良くなるし、配送の連携プレーができて廃棄率を下げられる。

もうひとつ、重要なポイントは容器の回収だ。容器を回収し、そのときにすべてフタを開けて食べ残しの状況をチェックする。その活動によって、顧客の反応を的確に把握することができ、その情報をメニューの改善に生かす。そして容器を再利用してコストを下げる。容器を回収に行くことによって営業活動も強化される。

さらには社員への還元というのも大きい。低コスト化の取り組みによって430円という低価格でも社内に付加価値が残り、もっと安くすることもできる。しかし、より価格を安くするのではなくて、その分を社員に還元している。
そのことを社員も知っているからこそ、一生懸命頑張る。そういう良い循環を生み出しているのである。

そのほか、サウスウエスト航空やセブンイレブンジャパンなどの事例も挙げられている。
本書で取り上げられている企業のロジックやビジネスモデルは、その会社に関する公開情報や経営者の発言などをもとに、あくまでも著者がその背景を解釈したものだ。大切なことは、そのエッセンスを知ったうえでいかに自分で創造できるかであろう。