2014年1月3日金曜日

●『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』(紺野登+目的工学研究所 ダイヤモンド社 2013)
利潤の最大化を求める「手段」を追求し過ぎたため起こった典型的な例が、2008年のリーマン・ショックだった。手段にとらわれすぎると、本質は見失われてしまう。

その後、同時多発的に「ソーシャル・アントレプレナー」や「社会的起業家」が世界中で現れはじめる。
21世紀は「手段の時代」から社会的な「目的の時代」になるべきだと本書は提言する。

マイケル・ポーターは「社会的な課題を解決することによって、社会と企業の双方に利益をもたらすビジネスを創造すべきである」と提唱する。
このCSV(Creating Shared Value: 共通価値の創造)の考え方については、私も前作『「折れない」中小企業の作り方』(日刊工業新聞社 2012)で、事例とともに紹介した。競争戦略の大家であるポーターでさえ、「社会問題解決と競争力強化の両立」を説き始めたのである。

本書の事例で登場するノーベル平和賞を受賞したムハマッド・ユヌスは、貧困層の経済的支援により、一人ひとりの生活の向上を「目的」とし、それを実現するために「マイクロ・クレジット(少額融資)」のシステムを創造し、グラミン銀行を立ち上げた。これも私は前作で紹介した。

また、「目的」と「目標」は似て非なるものである。売上増やコスト削減により利益率を上げることは数値を基準とした「目標」であり、「目的」ではない。
この「数値目標」に評価軸を掲げすぎたあまり、「目標」に従って仕事をこなすだけの組織となり、個々の「働く目的」は希薄となり、イノベーションが起きにくくなってしまったという現実がある。

本書が掲げる「目的工学」とは、「目的の追究」のためのマネジメント手法であり、イノベーションを創造するための方法論だ。
このコンセプトとフレームワークは、東日本大震災という未曾有の体験を抱えた日本企業が、復興への対応と自社の競争力強化を両立させる戦略を考える際の重要な課題になると思う。

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