2014年3月9日日曜日

●『クラウドストーミング‐組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方』(ショーン・エイブラハムソン/ピーター・ライダー/バスティアン・ウンターベルグ 著  須川 綾子 訳 阪急コミュニケーションズ 2014)

組織でアイディアや意思決定をする際によく用いられるのが「ブレインストーミング」だ。
本書では、そのブレインストーミングの参加者を、組織外の群衆(クラウド)までスケールアップさせたものを「クラウドストーミング」と呼ぶ。
ITの普及に伴い、不特定多数のアイディアを集め、意思決定や新商品・サービスの開発などに役立てることが容易になった。
さまざまな事例を用いながら、クラウドストーミングを成功させるための理論と具体的方法論を解説している。

本書では、クラウドストーミングの募集形態を参加者の役割に応じて次の3つに分類している。
・サーチ型
ひとつのチーム、あるいはひとつの企業といった組織の枠組みを越えて、その外側に存在する専門家を発掘して採用する。
参加者に求められるのは、専門知識に基づいた問題解決能力だ。
・協調型
アイディアの提供者に加え、フィードバックやアイディア評価といった補助的業務を担う人材にも募集をかける。
参加者はアイディア、フィードバック、成果物の評価を共有し、互いに交流する。
・統合型
協調型を発展させた形態。クラウドストーミングを組み込んだ組織を土台にビジネスを展開する。必然的に実行すべき仕事は多くなり(アイ
ディア創出、試作品作成、生産活動など)、組織外部だけでなく内部においても適材を見いだす努力が必要となる。

クラウドストーミングを成功させるためには、できる限り多様性のあるアイディアを集めることだ。
しかし収集した情報には玉もあれば石もある。
その中から有用なものを見分ける、あるいはそれらを結合して新しい価値をどれだけ見いだすかに成功がかかってくる。
クラウド(群衆)の潜在能力を生かし、社会を活性化させていくためには、この玉石混淆を見極めるキュレーター的人材の育成が重要なのかもしれない。

2014年3月8日土曜日

●『スウェーデンはなぜ強いのか 国家と企業の戦略を探る』(北岡孝義 PHP新書 2010) 

本書の中で、代表的なスウェーデン企業として紹介されているのが、H&Mとイケアである.
この2つの企業に共通しているのは、高品質と低価格はもちろんだが、スウェーデンの国家や国民性に基づく環境および労働条件への配慮が傑出している点だ。
この国家・国民の基盤については「国民の家」という国家理念に見ることができる。
一方、ボルボやサーブが破綻しても政府は救済しないという、非常に市場原理主義的な側面もある。

スウェーデンは、持続可能な社会保障制度を重視している。
税金は非常に高い。しかし医療費は、20歳以下は原則無料で、20歳を超えても、自己負担の上限が、900クローナ(12000円相当)と定められており、それ以上は原則無料である。
託児所も無料だ。教育費は、原則大学・大学院まで無料である。

高福祉高負担には、当然、国民の痛みがともなう。
しかしその施策を国民が受け入れている根底には、政治への信頼がある。
徹底した情報公開・運営の透明性と政策の説明責任がその背景にある。
そして「どんな国にしたいのか」という国の目指すべき姿を長い時間をかけて議論し、作り上げてきた歴史がある。

一方、日本には現在、政治への信頼があるだろうか?
投票率の低さを見ても目を覆うものがある。
政治家への不信感を嘆くのはなんら解決策を生まない。
国民ひとりひとりが「この国の将来」を考える力をつけていくことが、喫緊の課題なのかもしれない。

2014年3月2日日曜日

●『事業創造のロジック‐ダントツのビジネスを発想する』(根来 龍之 日経BP社 2014)

創造的な戦略を立てるためには何が必要か。
競争戦略論やビジネスモデル論を勉強すればビジネスの創造性が高まると思っている人は多い。
しかし、理論や手法を参考にして、自分の頭で考えることが大切だと著者は説く。
本書は、ビジネスモデルの勝利によってダントツの成功を収めた会社を分析し、ビジネスモデルに埋め込まれているロジック、すなわち「考え方」をたどることで、その会社の強さの秘密を明らかにしている。

たとえば大田区を中心に東京23区に営業範囲を広げており、1日に提供する弁当の数量は平均7万食という事業所向け弁当を供給する「玉子屋」の場合。
1日に2000食売れば大手と言われる弁当業界にあって、他社の追随を許さない規模である。年商は約90億円、従業員数は約700人。

同社が原価率の高い弁当を製造しても赤字にならない理由の1つが、弁当の廃棄率を極限まで下げていることだ。
成功の肝とも言えるのは、ユニークな配送方法である。通常のルート配送は、担当エリア別に必要な数量の商品を積み込んで配送車が散っていく。

しかし玉子屋は違う。
まず、工場から離れた地域を担当する先発組は、予測される受注数よりも多めの弁当を持って工場を出発し、担当エリアで弁当を配達する。
その後、配送を終えた先発組は工場に戻らず、遅れて出た後発組と連絡を取り合いながら、弁当が不足しているエリアの配送組と落ち合い、過不足分の弁当を渡す。現場の配送員たちの連携プレーによって、廃棄率を極限まで下げているのだ。

経済性原理がうまく働く会社には、その重要なポイントとなる「駆動要因」がある。
玉子屋の「駆動要因」は「1品メニュー化」だ。1品メニューだから、材料仕入れでまとめ買いができるし、調理の効率が良くなるし、配送の連携プレーができて廃棄率を下げられる。

もうひとつ、重要なポイントは容器の回収だ。容器を回収し、そのときにすべてフタを開けて食べ残しの状況をチェックする。その活動によって、顧客の反応を的確に把握することができ、その情報をメニューの改善に生かす。そして容器を再利用してコストを下げる。容器を回収に行くことによって営業活動も強化される。

さらには社員への還元というのも大きい。低コスト化の取り組みによって430円という低価格でも社内に付加価値が残り、もっと安くすることもできる。しかし、より価格を安くするのではなくて、その分を社員に還元している。
そのことを社員も知っているからこそ、一生懸命頑張る。そういう良い循環を生み出しているのである。

そのほか、サウスウエスト航空やセブンイレブンジャパンなどの事例も挙げられている。
本書で取り上げられている企業のロジックやビジネスモデルは、その会社に関する公開情報や経営者の発言などをもとに、あくまでも著者がその背景を解釈したものだ。大切なことは、そのエッセンスを知ったうえでいかに自分で創造できるかであろう。

2014年2月21日金曜日

●『ガバナンスとは何か』(マーク・ベビア 著 野田牧人 訳 NTT出版 2013)

「ガバナンス」は日本語では「統治」と訳される。
企業や政府、NPOなどあらゆる組織の構成員をまとめ、業務を遂行するための能力、価値観、方法論を指す。しかし、なかなかこれといったイメージを持ちづらい。

本書は、一見、イメージがつかみにくいガバナンスについて、理論と実践がてどのように移り変わってきたのか、企業、公共、また国際間それぞれのガバナンスが、現在どうなっているか等について明らかにしている。

論じる軸となるのは、組織の3つの形式、すなわち「階層構造」「市場」「ネットワーク」だ。
この3つの形式は、メリットとデメリットがある。
たとえば、今はネットワークが主流だとして、階層構造を時代後れのものだと否定する論調もある。
しかしそう捉えることは果たして得策であろうか?

現代の組織はむしろ、この3つの形式を「いかにすり合わせて組み合わせるか」を考えていくべきだと思う。
階層構造か市場かネットワークか、どの色が強くなっているか。
それがその組織の個性を決める。
今、求められるガバナンスとは、上手にそのすり合わせと組み合わせを考えていくことと言えるかもしれない。

2014年2月11日火曜日

●『レジリエンス 復活力‐あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か』(アンドリュー・ゾッリ/アン・マリー・ヒーリー 著 須川 綾子 訳 ダイヤモンド社 2013)

自然災害や人為的な大事故、金融危機やエネルギー危機などによって、個人や企業などの組織、コミュニティを取り巻く環境や状況が大きく変化する可能性がある。
そうした「状況変化へ対応する能力」を「レジリエンス」と呼ぶ。

優れたレジリエンスを育て、発揮するためにはどうすべきか。
本書は森林などの生態系や企業やコミュニティにおける実例をもとに、理論的に検証している。

興味深かったのは、優れたレジリエンスを発揮するコミュニティには、それを支える特定のタイプのリーダーが存在する、ということだ。
彼らは人々を結びつける卓越した能力をもち、政治的、経済的、社会的立場の異なるさまざまな組織のあいだに協力関係を築く。そして相互の交流の橋渡しをする。

彼らは、明確なビジョンを掲げる剛腕タイプの CEOとも、大胆に決断を下し采配を振るう政治家とも違う。
また、一般大衆の意見を汲み上げ提示する草の根活動家とも違う。
彼らは組織階層を自由自在に乗り越えて柔軟に働きかけ、各関係当事者が互いに理解し合うための通訳を務める、いわば「通訳としてのリーダー」である、と紹介されている。

混乱に見舞われたとき、このようなリーダーの存在が有事を平時に変えていく可能性がある。
これから求められるリーダー像を考えていく上でも、「レジリアンス」の視点は大いに参考になる。

2014年2月10日月曜日

●『「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か 』[Kindle版](上原 善広 新潮45eBooklet 2013)

世間をアッと言わせた佐村河内守氏のゴーストライター騒動。
「感動のストーリー」に人はなぜ安易に飛びつくのか?
全聾、被爆者という本来、その音楽性への評価になりえないものをバックボーンに、あえて仰々しいストーリーをまとわせることによって、クラッシック界のスターに仕立て上げる。
それを牽引してきた一部マスコミの罪は重いし、それを検証することもなく踊らされた人が数多かったのも事実として受け止めなければならない。

音楽理論の研究者であり指揮者でもある著者が、純粋に佐村河内氏の発言と音楽性から公平に判断し、事件発覚前に矛盾の数々を指摘した。
その慧眼に敬意を表する。

2014年2月9日日曜日

●『話すチカラをつくる本』(山田ズーニー 三笠書房 2010) 

4月から社会人になる息子が「この本はわかりやすい」といたく感激していたので、試しに読むことにした。
著者は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の「大人の小論文集。」を連載していることで知られている。
とにかく文章に無駄がなく、読みやすい。
さすが長年、ベネッセの編集者として鍛えられてきた人物だ。読ませることに長けている。

想いを伝えるために必要な要件は7つ。
1.自分のメディア力(相手から見た自分の信頼性はどうか?)
2.意見(自分がいちばん言いたいことは何か?)
3.論拠(意見の根拠は何か?)
4.目指す結果(だれがどうなることを目指すのか?)
5.論点(いま、どんな問いに基づいて話しているのか?)
6.相手にとっての意味(突き放した時、相手から見てこの話は何か?)
7.根本思想(自分の根っこにある想いは何か?)
(p.40より括弧部分説明加筆)


私が最も共感できるのが7つ目の「根本思想」だ。そこには次のようなことが記されていた。
言葉は氷山の一角のようなもので、根っこの部分には大きな価値観、思想が横たわっている。
「根本思想」とは言葉の製造元のようなもので、言葉の端々から常に自分の根本的な想いが表出している。
それはどんなに隠そうとしても隠しきれないもので、時々自分の想いをチェックして根っこの部分にどういう想いが含まれているのか、第三者的に見つめ直すことが重要である、ということ。

話すチカラにはノウハウが必要だ。
しかし、人間関係をスムーズに築き上げる心配りや気遣いを尊重した上で、言いたいことを言えるようになること。それによって開ける未来の重要性を本書は示唆している。
就活生や新入社員に是非とも薦めたい一冊だ。

2014年2月5日水曜日

●『創業一四〇〇年‐世界最古の会社に受け継がれる一六の教え』(金剛 利隆 ダイヤモンド社 2013) 


「世界最古の会社」として知られるのが、大阪に本社を持つ建設会社・株式会社金剛組だ。
飛鳥時代の578年に創業、2013年に1435周年を迎えた。
聖徳太子から四天王寺の建立を命じられた時からの伝統を守り、代々「四天王寺正大工職」を襲名し、金剛姓を継承する。

本書は、同社社長、会長を歴任し、現相談役を務める第39世四天王寺正大工職・金剛利隆氏が、2005年の倒産の危機を乗り越えた経験等をもとに「なぜ金剛組は1400年も存続することができたのか」を解き明かしている。

危機を乗り越えて金剛組が生き残ってきた理由の一つには、確かな技術を持つ人材を育て続けてきたことにある。

二つ目は、後継者の選び方が挙げられる。金剛組は「金剛」の姓を守り通しているが、そのすべてが直系ではない。
それは、血縁以上に、宮大工をはじめとする職方をまとめあげる能力を重視すべきという教訓があるからだ。

三つ目は、原点を忘れないこと。第32世金剛喜定は、子どもたちのために遺言書を残している。そこには、「職家心得之事」という16条からなる金剛家当主としての心構えが記されていた。
この16の教えには、分相応の「中庸の精神」を持つことの大切さが綴られている。

2005年になると、会社更生法と民事再生法のどちらを申請すべきなのかというところまで検討しなければならない事態にきていた。
それを救ったのが高松建設だった。高松建設・高松孝育会長(当時)は「金剛組を潰したら、大阪の恥や!」とまで言った。
それによって、金剛組は公的支援を受けずに再建の道を歩き出したのである。

再出発をするに当たっては、金剛組の大原点である社寺建築に立ち返ることから始まった。「宮大工なくして金剛組はない。社寺建築こそ金剛組の原点である」。
そして、社寺建築以外の仕事を一切請け負わないという約束が設けられた。

経営に行き詰まったときには「原点に帰れ」という教訓をよく耳にする。
しかし金剛組の場合、「原点」は何百年も前に遡る必要がある。「原点」に帰るときには、「現代」と「原点」のすり合わせが必要だ。
そのすり合わせが乖離せずできたときに、「復活」が可能になるのだろう。

2014年1月30日木曜日

●『〈女神的〉リーダーシップ』(ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ著 有賀裕子訳 プレジデント社 2013) 

ビジネスや人々の暮らしを取り巻く環境が、明らかに数十年前から変化している。だとするならば、変化する環境にフィットした価値観と、その価値観に基づくリーダーシップが必要とされる。
本書は、今後求められるリーダーシップを「〈女神的〉リーダーシップ」と名づけている。

従来女性的と見なされてきた理念や資質が、産業界、政・官界、コミュニティ組織などで優勢になっているのではないか。その考えをもとに2011年夏に、世界主要50ヵ国の75万人の消費者と5万企業を対象にした1993年からの調査結果を蓄積したブランド・データベースBrandAsset(R) Valuatorを使って、経済、テクノロジー、世代の影響、グローバリゼーションなどの諸要因により、「女性的」な特徴のほうが一般に高く評価されるようになっているのか否かを探った。

調査の結果、人生で成功するには男性的な資質と女性的な資質の両方がカギを握ると考えているという回答が多数を占めた。
全体の65%が、政府に女性のリーダーが増えれば信頼や公平さが増進して戦争や不祥事は減ると見ている。
成功へのカギはおおよそ以下の通りにまとめられる。

 つながり:人脈を築き保っていく能力
 謙虚:よく話を聞いて他人から学び、手柄を分かち合おうとする姿勢
 率直:包み隠さず誠実に話をしようという意思
 忍耐:解決策がすぐに見つかるとはかぎらないという認識
 共感:他者への深い理解につながる気配り
 信頼:信頼される実績と人柄
 寛容:すべての人や考えを受け止めるあり方
 柔軟性:必要に応じて変化、順応する力
 弱さ:自分は完璧ではなく失敗もあると認める勇気
 調和:調和の取れた目的意識

これらの資質は、ギリシア神話の女神アテナに例えられる。アテナはその知性、技能、文明化への影響、公正さなどが崇拝の対象となり、産業、芸術、工芸の女神とされた。

ただしあってはならないことは、男性的価値観と女性的価値観が対立あるいは衝突することだ。
〈女神的〉価値観をベースに、男性的な価値観を含む多様性のなかで、相互を認め合い建設的な議論をすることが、問題解決、イノベーションのための最良の方法である。

奇しくも本日、30歳の女性研究者・小保方晴子さんが第3の万能細胞、STAP細胞について発表し、世間をアッと言わせた。「〈女神的〉リーダーシップ」の時代を予感させた日とも言えるかもしれない。

2014年1月25日土曜日

●『関谷英里子の交渉で使えるビジネス英語 初級編 』[Kindle版](インプレスコミュニケーションズ 2014)

マーク・ザッカーバーグやフィリップ・コトラーなど著名人の同時通訳者として活躍する著者。そのビジネス英語のエッセンスを知ることができる。

全文を暗記できる程度の32フレーズのため、食い足りなさは否めない。しかし頭の中にはスルリと入ってくる。

著者の感性ー例えば「日本語から考えると正しい英語に一見感じるが、聞くほうには失礼な印象を与えている」とか、「より丁寧な表現するためにはどうしたらいいか」と考えることで、英文をブラッシュアップしていく。

今回、Kindleではなくスマホで全部読んでみた。例えば電車の中でスマホで30分程度読むにはちょうどいい分量かもしれない。読書のスタイルが日常に溶け込み、確実に変わってきていると感じる。

2014年1月23日木曜日

●『JALはなぜ生まれ変わることができたのか 稲盛氏自身が解き明かす謎 』[WEB新書](週刊ダイヤモンド編 朝日新聞出版社 2013)

週刊ダイヤモンドの2013年6月22日号特集記事をWEB新書として購読できるサービスを利用。ビューアーでPDFで読めるほか、プリントアウトもできる。抜粋して資料として欲しい時には良いサービスだ。

JALが会社更生法を申請したのが2010年1月。エリートが多く官僚的で誰が乗り込んでも再生は難しいと言われていた体質の企業だ。しかし再建は予想を上回るペースで進み、今年4月には3年ぶりに新卒採用を行うという。

再生のエンジンとなったのは、「意識改革」と「部門別採算性」を敷いた「稲盛経営」である。
山ほどの課題を抱え倒産したJALに、航空運輸業の経験がまったくない京セラ名誉会長の稲盛氏自身のインタビューをはじめ、京セラ、KDDIの経営実践例を交えて、JAL再建の核心に迫っている。

稲森氏が「再建の任」を承諾した理由は、もしJALが二次破綻した場合、日本経済に与える影響の大きさ、残った社員の雇用を守ること、社会インフラとしての利便性を守る、ということだったという。

崇高な使命感のもとで報酬ゼロで再建に臨んだ稲森氏は、経営哲学「フィロソフィ」と、経営管理システム「アメーバ経営」だけを携えて乗り込んでいった。
まるで企業小説を読んでいるような再建のヒストリーに、稲盛氏の経営者としての熱い「心」を感じ、その姿勢に襟を正して言葉を受け止める一冊だ。

2014年1月15日水曜日

●『カール教授が女子高生にハーバードのビジネス理論を説明してみた 』[Kindle版](平野敦士カール インプレスコミュニケーションズ 2014)

100円で経営学のエッセンスを1時間で学べる―。これはインパクトが強い。コンセプトは「もしドラ」に近い。

筆者であるカール教授が、女子高生と会話しながらマイケル・ポーターをはじめとするビジネス理論から、分析手法、構築方法まで、具体的な企業事例を交えながらわかりやすく解説していく。
経営学のキーワードと概略をサーっとさらうには非常に良いツールだと思う。

この電子書籍でキーワードをチェックして、さらに「ブルー・オーシャン戦略」や「プラットフォーム戦略」、「ファイブフォース戦略」など、従来型の読書の方法で知識と理解を深めていくための手引き書になるだろう。

ある意味で電子書籍と紙媒体の差異がはっきりわかる一冊。改めて電子書籍の存在意義や活用法を再考する機会となった。

2014年1月13日月曜日

●『文化資本論 超企業・超制度革命にむけて』(山本哲士 新曜社 1999)

日本企業は、経済効率を重んじて、ヒト・モノ・カネを動かしてリノベーションを続けてきた。その経済成長に依存してきたあまり日本の国際競争力は失われてきたと言っても過言でないだろう。
この閉塞状況を打開するためのキーワードのひとつが、本書が説く「文化資本」である。

「文化資本」と言うと、仏・社会学者のピエール・ブルデューが提唱した概念、「個人の中に蓄積した文化資本が、結局その個人の将来の学歴、地位、収入などを決めるようになる」と通常解釈されるが、筆者の説く文化資本とは、それとは異なり経済学的な意味が含まれる。文化は一般的に経済や経営に遠くかけ離れているものと思われがちだが、実は次の経営に活かせるストックであり、資本であるとしている。

経済資本の蓄積と短期的な利潤を追求した20世紀型の企業活動を超え、企業に蓄積された文化資本を経営の基軸に置くことで、人間性や地球環境と矛盾しない持続的な経済発展の形を考えるべきである、というものである。

日本企業が得意としている改良や改善は、既存の価値を効率よく生み出す「リノベーション」に過ぎない。本当の意味で創造的な活動というのは、既存の価値の延長線上にはない。
私たちはリノベーションではなく、「イノベーション」によっての文化的な価値を創造し、新たなステージにのぼる必要性がある。

2014年1月11日土曜日

●『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』(クレイトン・M・クリステンセン, ジェームズ・アルワース, カレン・ディロン (著), 櫻井 祐子 (翻訳)  翔泳社 2012)

昨年、半分位読んでいたものを遂に読了。
本書は「イノベーションのジレンマ」の著者・ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授によるものだ。
「イノベーションのジレンマ」は、巨大企業とイノベーションについて描かれた経営学の名著で、私も大学院時代に論文を書くために読んだ。

本書は2007年から2010年の間に悪性腫瘍や心臓発作、脳卒中など数々の病魔と戦いながら執筆されたという。そのため、クリステンセン教授が教えてきた経営戦略論を人生訓に落としこみ、ハーバード・ビジネススクールの卒業生に向けて、人生のジレンマを乗り越えて生き抜くためのメッセージの数々が網羅されている。

特に第一部の「キャリア」についての考察が、個人的には印象に残った。
仕事へのモチベーションには「衛生要因」と「動機づけ要因」の2種類がある。
衛生要因は、「少しでも欠けると不満につながる」ために、どんなに改善しても仕事を好きにさせることができない。「報酬」などがこの要素に当たる。ちなみに「動機づけ要因」には、やりがいのある仕事、他者による評価、責任、自己成長などがある。
その他、キャリアの創発的戦略と意図的戦略、自分という資源の配分方法などが紹介されている。

原書論文のタイトルはこうだ。
"HOW WILL YOU MEASURE YOUR LIFE?"
(あなたは自分の人生の価値観をどこに置きますか?)

自分の原点はどこにあるのか。地位や名誉にとらわれることなく、自分の一番大切とする動機、達成感を基盤とすること。
それをもとに幸福に生きることを見出すことが必要だということを投げかけている。「経営論」の枠を超え、「人生論」として読みたい一冊だ。

2014年1月9日木曜日

●『リバース・イノベーション』(ビジャイ・ゴビンダラジャン,クリス・トリンブル ダイヤモンド社 2012)

「リバース・イノベーション」とは、グローバル企業が自社のリソースを活用して、新興国で一からサービスや製品や市場を開拓し、そこで完成したものを先進国や自国に還流することを指す。

その国に合った製品やアプローチで攻めていくことは、考えてみれば当たり前の話である。しかし、いわゆるドミナント・ロジック(長年の経験・知識の蓄積のなかで選び抜かれた、当該組織専用の成功のロジック )でがんじがらめになっている大企業にとっては、なかなか簡単にはいかない。

富裕国には10ドル使える人が1人、貧困国には1ドル使える人が10人。富裕国向けに作られた製品の廉価版は外部環境が違う貧困国では売れない。
売るためには、ゼロからマーケティングを行い製品を作る必要がある。

新興国の未来は先進国の現在ではない。新興国は先進国とまったく別の進化をたどっている。本書は新興国向けの製品が先進国のダウングレードでは通用しないと示唆している。

たくさん事例が挙げられていたが、特に印象に残ったのは、ロジテックのマウス、P&Gの生理用品、GEの携帯型心電計の3つだ。

新興国で開発した製品やプラットフォームが、先進国の隠れたニーズを引き出し新たな市場を作り出すことができる。それがリーバス・イノベーションの肝と言えよう。

2014年1月4日土曜日

●『日本近世における聖なる熱狂と社会変動 社会変動をどうとらえるか4』(遠藤薫 勁草書房 2010)

息子の大学の先生の著書。いわゆる社会工学的見地から書かれた論文であるため、若干の読みづらさは否めなかったが、内容的には非常に面白かった(私の大学院時代の恩師の言葉を借りるといわゆる「噛みごたえのある」本だ)。

江戸時代の社会変動に対する考察を軸として、「ええじゃないか」「忠臣蔵」「自動機械」「TDLと善光寺参りの比較」などが分析されている。

特に興味深かった点は2つ。
一つ目は自動機械に対する考察だ。自然の時間にこだわった日本では、機械時計は一般化せず、資本主義や大量生産も発展する事はなかった。
しかし機械時計の技術は、からくり人形に姿を変えて継承され、19世紀の開国とともに、改めて日本の時計産業を発展させ今に至る。

西欧型の自動人形は、人間が新たな神となって新たな人形(ロボット)を創造しようとする、いわば自然への挑戦だ。これに対して日本のからくり人形は、人間と機械とが融合して、新たな自然美を創造するものだった。西欧型は技術追求、日本型は芸術追求という姿勢である。

これは現在においても、日本のモノづくりの職人の姿勢に通じるのではないか。
精緻で美しいモノを生み出す執念は、まさに芸術家のそれと同等とも言えるかもしれない。ただ、そこに拘泥しすぎるといわゆる「ガラパゴス化」も進む。その点も今後、十分配慮していかないといけないだろう。

二つ目は、TDL(東京ディズニーランド)と善光寺の類似性である。両者とも「私」性から来ているところが興味深い。
善光寺は本田善光という人物の私寺がそのルーツであり、一般人の信仰を集めることで拡大してきた。
一方、DLは、ディズニーという私人による創設であり、TDLが出来た。
両者とも集客力に優れ、異界性、共有性、感覚性、宇宙性、拡大性など共通要素が多い。

これらの要素を情報化社会における「地域活性化」として考察するところが、筆者の独自の視点である。

あとがきにこんな一文があった。本書の内容を端的に語った秀逸な一文なので紹介したい(p200)。

 <社会>を考えようとするとき、<歴史>は、欠くことのできない観察記録であり、実験場である。
 <歴史>の窓をのぞきこめば、そこには無数の人びとがうごめき、語り続ける、見ても見尽くせぬ巨大ジオラマが展開している。そして、私たち自身、そのジオラマの一部なのだ。


2014年1月3日金曜日

●『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』(紺野登+目的工学研究所 ダイヤモンド社 2013)
利潤の最大化を求める「手段」を追求し過ぎたため起こった典型的な例が、2008年のリーマン・ショックだった。手段にとらわれすぎると、本質は見失われてしまう。

その後、同時多発的に「ソーシャル・アントレプレナー」や「社会的起業家」が世界中で現れはじめる。
21世紀は「手段の時代」から社会的な「目的の時代」になるべきだと本書は提言する。

マイケル・ポーターは「社会的な課題を解決することによって、社会と企業の双方に利益をもたらすビジネスを創造すべきである」と提唱する。
このCSV(Creating Shared Value: 共通価値の創造)の考え方については、私も前作『「折れない」中小企業の作り方』(日刊工業新聞社 2012)で、事例とともに紹介した。競争戦略の大家であるポーターでさえ、「社会問題解決と競争力強化の両立」を説き始めたのである。

本書の事例で登場するノーベル平和賞を受賞したムハマッド・ユヌスは、貧困層の経済的支援により、一人ひとりの生活の向上を「目的」とし、それを実現するために「マイクロ・クレジット(少額融資)」のシステムを創造し、グラミン銀行を立ち上げた。これも私は前作で紹介した。

また、「目的」と「目標」は似て非なるものである。売上増やコスト削減により利益率を上げることは数値を基準とした「目標」であり、「目的」ではない。
この「数値目標」に評価軸を掲げすぎたあまり、「目標」に従って仕事をこなすだけの組織となり、個々の「働く目的」は希薄となり、イノベーションが起きにくくなってしまったという現実がある。

本書が掲げる「目的工学」とは、「目的の追究」のためのマネジメント手法であり、イノベーションを創造するための方法論だ。
このコンセプトとフレームワークは、東日本大震災という未曾有の体験を抱えた日本企業が、復興への対応と自社の競争力強化を両立させる戦略を考える際の重要な課題になると思う。
●『どっこい大田の工匠たち 町工場の最前線』(小関智弘 現代書館 2013)
大田区には、従業員3人以下の現場を対象とした「大田の工匠100人」という表彰制度がある。
その審査員のひとりで、町工場で旋盤工として働きながら、数々の作品を世に出してきた小関智弘氏が17人の工匠たちを訪ねたルポルタージュだ。

のっけから登場する安久工機さんの医工連携のエピソードを始め、包丁作りや江戸切子、民族楽器のスティール・パン職人など、大田区が得意とする機械金属加工の職人のみではないユニークな事例も含まれている。

職人たちに共通しているのは、長い下積みの日々を送り、ときには理不尽な要求も受け入れる。それでも研鑽を続け、他所ではできないモノづくりの技術で生き抜いてきたこと。

彼らが残してくれているものは、モノだけではない。確かなモノをつくりあげてきた生き方への矜持だ。大田区に生きる町工場の職人の息吹を愛情をもった表現で感じられる良書だ。